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苺のショートケーキ

  • Posted by: 涙脆い管理人
  • 2011年6月11日 08:35
  • 家族

俺には歳が六つ離れた妹がいた。
俺は小学校の頃からずっと体育5とかで元気だけが取り柄みたいな子供だったんだが、妹はちょっと体が弱くて少し体調を崩すと何日も熱で寝込んじゃうくらいだった。
そんな事もあってかお互いケンカもほとんどなく本当に仲良く楽しく暮らしていた。
結構妹に甘くて、いつも何か頼み事されたら断り切れないでそれを聞いてしまう。

例えば、苺のショートケーキがおやつに出たら、出た瞬間にはもう妹が顔で合図してくる。
俺も馴れたものでそれだけで

「はいはい・・・。」

って感じで聞いてしまう。
そしたら妹は、たった一つの苺で大はしゃぎする。
あれを見たら苺の一つや二つなんかまじで安いもんだって思った。
本当にそんな何でもない日々を過ごしていた。
でもさ、現実なんて本当にもろいもんだった・・・。

俺が高校2年生の時だった。
その日の朝もいつもと変わらない朝のはずだった。
いつもの目覚ましで起きて、いつもの制服に着替えて、いつもの道を通って学校に行く。
そんな何でもない日だったはずなのに、朝起きたら両親がやたらと騒いでいた。
朝からうるせぇなぁとか思いながら両親が騒いでる居間に行くとそこで顔面蒼白の妹が横になって呻いていた。
今までの熱とは明らかに違うような感じで、もう誰が見てもわかるくらいに

「苦しい・・・辛い・・・。」

って顔だった。
さすがに俺もびびって、すぐ妹に話しかけた。
そしたら、本当は苦しいはずなのに

「いつもの熱だから大丈夫だよ。」

って笑って言った。
そんなわけ絶対になかったのに・・・。

親父が救急車を呼んですぐ病院に直行、すぐ集中治療室に運ばれた。
ドラマとかであるだろ?
集中治療室の前で待ってる場面とか。
俺もよく見たけどあの時は本当に気が狂いそうになった。
次から次へと嫌なことばかり考えてしまう。本当に生き地獄だった。
その日の手術は無事終わったが話によるとこれからもあと何回か手術を受けなければいけないらしい。
もちろん妹はそのまま入院。

退院の日にちを教えて貰うなんて甘い状況ではなかった。
次の手術の心配をしなければいけない状況だった。
妹はいつも

「自分の熱のせいでいつもみんなに迷惑かけてるからあたしは悪い子だね。」

って言ってた。
今思えば、どんなに苦しくてもいつも笑いながら

「大丈夫だよ。」

って言ってたのか。
そんなことにすら気がつかなかったのに俺は

「心配するな、誰もそんな風に思ってないよ。」

って言ってた。
妹はずっと笑っていた。
恥ずかしい話だよ、本当に。

俺は、何で小学生の子供がこんな我慢しなきゃいけないんだって本当に何度も思った。
年甲斐もなく

「神様、助けてください。」

とかもやった。
無駄かもしれないってわかってたけど本当に藁にもすがる思いだった。
お見舞いには毎日行ってたんだが妹は全身チューブ姿。
俺は初めてその姿を見たとき、本当に怖かった。
このまま、もうだめなんじゃないかって・・・。
でも、あいつの顔をみたらそんなバカな考えが一瞬で吹きとんじまった。
その時、俺もしっかりしなきゃだめだって改めて思った。

学校の部活も休部にさせて貰って友達の誘いも全部断ってずっと学校から病院に直行。
初めは恥ずかしいのか知らないけど

「毎日来なくていいよ。」

って言われたりした。
でも、病院なんてやっぱりつまらない場所だからすぐに

「早く来てよ!」

って言うようになった。
大抵は母さんがそばについていたんだがどうしても居ない日とかできたりしたから、そんな日はこっそり学校休んでずっとついててやってた。

俺あんまりしゃべるのうまくないんだけど、一生懸命話すと妹も笑って聞いてくれた。
正直、何度も同じ話をしたと思う。
でもさ、ずっと笑いながら聞いててくれたんだ。
一度、

「おまえはよ、俺には勿体ないぐらい良い妹だな。」

って言った時、とびっきりの笑顔で答えを返してくれた。
あの時は本当にうれしかった。
これ書いてる今でも鮮明に覚えているぐらいだからな。

それから二ヶ月ぐらいたった頃だった・・・。
久しぶりに家族そろって病院に行った。
入院した頃に比べたら妹は本当に痩せてて触ったら折れてしまうんじゃないかってぐらい細い腕になっていた。
それはそうだ、ずっとベットの上で大して動けずにずっと、食べやすいようにされたどろどろの病院食と点滴だけだ。

一度、お見舞いの時に苺のショートケーキを買って持っていったんだが、その時は食べることをゆるされなかった。
目の前にあるのに食べられないっていう辛い思いをさせてしまったから、その日以来、食べ物は持っていかないようにしてた。

でも、その日は違った。
親父がいきなり

「何か食べたいものはあるか?」

って言った。
俺は不思議に思っていたんだが、妹はそんな俺にはお構いなしで大喜びだった。
案の定、苺のショートケーキが食べたいって言った。
親父は奮発して高いのを買ってやるって言ってた。
その日は本当に久しぶりにみんなが大笑いできた日だった。

病院の帰り、車の中で俺はさっき思っていたことを親父に聞いた。

「もう、普通の食事をしてもいいのか?ってことはよくなってるんだよな!?」

って嬉しくて大声で言った。
そしたら、親父は黙り込んだ。
どういう訳か母さんも俯いてた。
さすがに俺も薄々感づいてた。
親父は言った。

「先生(医師)の話では、もう長くはないそうだ。」

そんな、本当にそんな素っ気ない言葉で俺は頭の中が真っ白になっていた。
妹の体は衰弱しきっていたらしい。
何のための苦しい手術だったんだ。
何のための長い入院生活だったんだ。
まだ何か言ってたけどあんまり覚えてない。
母さんは横で泣いてた。
その時俺はどうして良いかわからなかった。

次のお見舞いの日に、いつも食べていたようなスーパーで買う苺ショートケーキとは違って専門店の高い苺ショートケーキを買っていった。
苺も本当に大きくて甘そうだった。
それをみて妹は大はしゃぎ。
苺のショートケーキを渡したら、本当に久しぶりに顔で合図をしてきたんだ。
そのことが本当は嬉しかったけどいつものように

「はいはい・・・。」

って感じで苺を渡そうとした。
でも、それを妹が遮った。

「今日は兄ちゃんが私の苺も食べて。」

って・・・。
俺は一瞬呆気にとられていた。
だって久しぶりのショートケーキでしかも高い奴なのに。
なんでそんな事するんだって聞いた。
理由を聞いても

「いいじゃん。」

って首を振るだけ。
俺も初めはしぶっていたんだがどうしてもって言うから素直に貰うことにした。
その様子を見て妹は本当に嬉しそうな顔をした。
で、一緒に食べた。苺のショートケーキ。
それで妹が聞いてきた。

「苺、おいしかった?」

って。
俺はうなずいた。
本当においしかった。

あの時改めて思ったのが

「食べ物は一緒に食べる人によって味がかわるもんだな。」

って。
どういうわけか、同じ苺なのに妹の方が甘く感じるんだ。
気持ち一つでここまで変わるんだなって正直びっくりした。
その後もいつものように何気ない話をして笑った。
その中で、やっぱり親父が妹に言うんだよ。

「元気になって退院したら何処か行きたいところはあるかい?」

って。
俺は、遊園地かそこらだろうかって考えてた。
妹はちょっと考えてから

「家に帰りたい。家のテーブルでみんなと一緒にお母さんのごはんが食べたい。」

って・・・。
俺、自分の考えの浅はかさに怒りを覚えたよ・・・。
今の妹にはそんな当たり前のことですら願いごとに値するほどなのに。
病室にいられなくなってトイレに行って泣いた。
もう、わけがわからなくなって。
親父と母さんはさすが大人だと思った。
家に帰るまではずっと笑顔のままだったんだから。

ついにその日がきた。あのときも朝だった。
今度は目覚ましでなんて起きない、親父の怒声でおきた。
容態が急変したらしい。
着替える暇もなくパジャマのまま車にのって病院にいった。
妹は呼吸を荒げていた。
遠くからでもわかりそうなぐらいに荒かった。
病院に行ったあの日よりも辛そうな顔にいっぱい汗をかいてた。
母さんが妹の手を握ってた。
母さんの手は真っ白になってた。
それぐらい力が入ってたんだと思う。

妹は俺たちが来たことに気付いたらしく妹が本当に小さな声でいったんだ。

「苺、おいしかった?」

って。
それは前に何度も言った言葉だった。
荒げる呼吸の中なのに何故かはっきりと聞こえた。
俺はうなずくことしかできなかった。

「次は俺のをあげるからまた一緒に食べような。」

って言ったら

「今度、食べるときも、あたしのを、あげるよ。」

って途切れ途切れに返してきた・・・。
もう、我慢出来なくなってた。
俺はボロ泣きだった。

苺なんていらないからこれからも一緒に話しをしてくれよ。
これからも一緒に笑ってくれよ。
前みたいに一緒に遊びに行ってくれよ。
楽しい場所、いっぱい知ってるんだよ・・・。
1人じゃつまんねぇよ・・・。
俺は本当に・・・本当にそう思っていた。
でも、そんなこと絶対に言えなかった。
辛いのは妹だったんだから。

「そんなこと言ってると、これからもずっとお前の苺を食っちまうからな。」

笑いながらそんな冗談を飛ばした。
俺は泣いてたのに。
たぶん、変な顔になってたんだろう。

妹は笑っていた。
俺は泣いてるのに笑って、お前は苦しいのに笑って。
本当に変な兄妹だったな、俺たち。

あんなに苦しんでいたのに逝く時は本当にあっさりだった。
治ってしまったのかと思えるほど朗らかな顔。
ただ眠っているだけにしか見えない顔。
なのに、なんでその顔に白い布をかけるんだよ。
俺たちの顔を見れなくなるじゃないか・・・。
俺たちともう話せなくなるじゃないか・・・。
もう泣くことしかできなかった。
あんなに泣いていたのにまだ涙は枯れなかった。

俺はダメな兄ちゃんだった。
ただ会いに行って話をするだけで。
俺はお前からたくさんの大切な物をもらったのに、俺はお前に何か伝えてやれたんだろうか?
俺の気持ち、伝わってたか?
こんな俺たちの日々を誰かに伝えたくて、今こうして文字にしている。

あれから二年、俺は勉強したかいもあり無事大学にも合格し、一段落ついた。
二年たった今でもはっきりと覚えているお前の笑顔。
遅くなっちまったけどあの時言えなかったあの言葉を言わせてくれ。

苺、おいしかったよ。
ありがとう。

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